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福岡地方裁判所柳川支部 事件番号不詳 判決

右被告人中原守、中村孝、田村順〓、松野照次に対する建造物侵入、被告人細谷治嘉、山崎俊助、榎下常雄に対する同幇助各被告事件につき検察官杉本覚一、金子勝蔵関与の上左の通り判決する。

主文

被告人中原守、中村孝を懲役三月に

被告人田村順〓を懲役四月に

被告人松野照次、山崎俊助を懲役六月に

各処する。

但し被告人全員に対し二年間右刑の執行を猶予する

被告人細谷治嘉、榎下常雄は無罪

被告人山崎俊助に対する公訴事実中東洋高圧株式会社電気産業労働組合大牟田分会、同港分会の各デモ隊の建造物侵入幇助の点は各無罪

訴訟費用中証人松山安雄、佐々木改革に支給した分は被告人中原守、証人平田秀雄に支給した分は被告人中村孝証人〓園剛、福山二郞に支給した分は被告人田村順〓、証人上野昭二、中野貞光、平木正五郞に支給した分は被告人松野照次の各負担とし、証人古賀初男に支給した分は被告人等の各負担とする。

理由

第一、犯罪事実

(1)  被告人中原守は昭和二十三年七月一日東洋高圧株式会社労働組合本部鬪争委員靑年婦人部長となり其後防衞部長となつたが同年十月二十一日の夕刻開催された右労働組合鬪争委員会に於て翌二十二日当時争議中の隣接する大牟田市浅牟田町三十番地三井化学工業株式会社三井染料工業所(以下三井染料と略称する)の労働組合激励の為にデモ隊派遣が決定された際其隊長に指名され翌二十二日午后零時三十分頃デモ隊約六百名を引率出発して両会社間に通ずる線路伝いに右工業所に赴き右出発直前右工業所としては斯るデモ隊員の入所を拒否していることを熟知して居つたに拘らず右工業所長大坪昌治の看守する右工業所の構内に故なく侵入し其後右工業所係員より数回に亘り制止せられたに拘らず之を無視して約三十分間に亘り右工業所内をデモ行進し

(2)  被告人中村孝は電気産業労働組合大牟田分会の執行委員代理であつたが前記十月二十二日午后零時三十分頃同分会執行委員〓園剛より同分会のデモ隊の隊長となり右三井染料労働組合激励の為デモ行進を為すよう依賴されて之を承諾し右分会靑年行動隊員二十八名位を引率出発し同日午后一時過頃右工業所正門前に到着したが右工業所側は正門を閉め同所附近にデモ隊の入所を禁止する旨の立看板を立て且総務課長伊藤〓男外数名が右正門附近に於て入所を拒否していたのに拘らず自動車通行の為一時開いた正門より右隊員と共に前記構内に故なく侵入し十数分間に亘り同構内をデモ行進し

(3)  被告人田村順〓は大牟田市小浜町電気化学工業株式会社労働組合文敎副部長であつたが前記十月二十二日午前十時頃同組合長福山二郞の指示を受けた同組合靑年部長河野正一よりデモ隊の隊長となつて右工業所の労働組合激励の為デモ行進を為すよう依賴されて之を承諾し同日午后一時三十分頃デモ隊員約七十名を引率出発し前記正門前に到着したが右工業所側は前記(2)同様正門を閉め立看板を立て且人事課長古賀初男、同代理笠間〓一郞外数名が正門の内外に於て入所を拒否していたのに拘らず右隊員と共に右正門横の通用門より突入して故なく前記構内に侵入し同構内を約三十分間に亘りデモ行進し

(4)  被告人松野照次は電気産業労働組合港分会の靑年行動隊員であつたが昭和二十三年十月二十三日午前九時頃右組合執行部の指示により右靑年行動隊の本部に於て隊員二十数名を集め自ら議長となり前記三井染料工業所労働組合に対し激励の為デモを敢行するの可否を諮つた結果敢行することに決定するや事実上の指揮者となり三十数名を引率して同日午前十時頃右分会を出発し正午頃前記工業所正門前に到着したが工業所側は正門を閉めデモ隊の入所を禁止する旨の貼紙を為した上前記古賀初男外数名の工業所係員がデモ隊の入所を拒否したのに拘らず隊員と共に正門を乘越えて前記構内に侵入し同構内を約二時間に亘りデモ行進等を為し

(5)  被告人山崎俊助は昭和二十二年九月前記三染労働組合の執行委員に就任し右組合の所属する三井化学工業株式会社労働組合連合会が同二十三年三月頃より右会社側との間に賃金値上、労働協約改訂其他の問題解決の為経営協議会内に於て折衝を重ねたが妥結を見るに至らなかつたので右連合会は右会社に対して右交渉を打切り団体交渉に入るべき旨申入れ爾来主として前記工業所に於て団体交渉を為すに至り右組合が鬪争体制を採るに至るや副鬪争委員長となつた者であるが前記(3)のデモ隊が正門前に到着した際前記通用門の内側に歓迎の為来ており同門より突入してデモ隊の右構内にある労働組合事務所迄案内し以て前記侵入を幇助し

た者である。

(証拠説明省略)

第三、適用法条

被告人中原守、中村孝、田村順〓、松野照次に対し刑法第百三十条(懲役刑選択)

被告人山崎俊助に対し同法第百三十条第六十二条第一項第六十三条第六十八条(懲役刑選択)

尚被告人全員に対し同法第二十五条、旧刑事訴訟法第三百三十七条

弁護人及び前記各被告人は(一)改正前の旧労働法第十条に基く団体交渉権の委任を受けた以上受任者は相手方との団体交渉自体を為し得るのは勿論団体交渉を有利ならしめる一切の行為を為し得るから前記デモ行進は旧労働組合法第一条第三項の適用を受け何等違法性を帯びないものである旨主張する。団体交渉権と団体行動権とを区別する法制の下に於ては右見解は直に是認し得ないのみならず後段に認定する通り本件の団体交渉の委任は真実委任する意思の下に為されたものではなく被告人中原守、中村孝、田村順〓の三名は右委任の為されたことは判示侵入後に至つて初めて知つたのであり被告人松野照次は判示侵入前に知つてはいたが右被告人等四名は共に団体交渉を為すとの意思を有していなかつたことは被告人等の判示侵入後の行動及び当審に於ける証人伊藤〓男の供述に徴するも明白である、従つて仮に団体交渉の委任を受けた者は団体交渉を有利ならしむる一切の行為を為し得るとの見解を是認するとしても右主張は採用し得ない団体交渉其他の団体行動をする権利の保障されていることは言を俟たないところであるがこれらの権利の行使に当り其附随的手段に於て他の法益を侵害する場合刑事法規に照し責を問わるべきは言を俟たない。

(二)次に組合事務所は判示構内に所在しており該事務所への出入は自由に許容されていたから本件の場合のみ出入を拒否するのは不当であると主張する当審の検証の結果によれば右組合事務所が判示構内に所在することは明白であるが三井染料工業所の殆んど全工場が右構内に所在することも又明白である。前記証人伊藤〓男及び証人大坪昌治の証言によれば右工場中には所謂賠償工場に指定されているものも点在しており其の保管上或は右工場内の地理に暗い他労働組合員より成る多数デモ隊の入所した場合の危険防止等の全工場の管理上平常の場合許容されている出入を制限又阻止するのは何等不当の処置とは断じ得ないから右主張も又理由がない。

本件公訴事実中被告人細谷治嘉、山崎俊助、榎下常雄に対する分(但し被告人山崎俊助に対しては(ハ)に関する部分を除く)は

被告人細谷治嘉は昭和二十三年六月三井化学工業株式会社三井染料工業所(以下三染工業所と略称す)職員及び従業員を以て組織したる三井染料労働組合(以下三染労組と略称す)執行委員長に就任し被告人山崎俊助、同榎下常雄両名は何れも昭和二十三年九月三染労組執行委員に就任したるものなる処

三染労組は三井化学工業株式会社労働組合連合会(以下三化連と略称す)中最有力労組なるが昭和二十三年三月頃より三染労組を主体とせる三化連は会社側との間に賃金値上、労働協約改訂その他の問題解決のため経営協議会内に於て接衝を始めたるが之れが妥結を見るに至らざりしを以て同年八月十三日三化連は会社に対し経営協議会内の交渉を打切り実力を背景とする団体交渉に入るべき旨申入れ爾来主として三染現場に於て会社側と団体交渉を為し他面三染労組は鬪争体形を採り被告人細谷治嘉が鬪争委員長、被告人山崎俊助外一名が副鬪争委員長、被告人榎下常雄外執行委員は鬪争委員となり団体交渉を有利に展開する為め数次に亘り同盟罷業その他の争議行為に訴えたるもその解決を見るに至らざりしがその間大牟田市内に於ける労働組合の多数を以て組織したる大牟田地方労働組合会議(以下大労会議と略称す)傘下の労組に於ても会社側と争議状態に入り居りしもの尠からざりしを以て茲に大労会議傘下労組の共同鬪争委員会を設くるに至りたるが

昭和二十三年十月二十二日朝大労会議共同鬪争委員会は三染労組に対し二十二日及び二十三日の両日に亘り大労会議傘下労組より三染労組に対し激励デモを実施すべきにつき之を受くるや否やとの申入を為したるを以て三染労組に於ては直ちに之を戰術委員会に附議して受入ることを決定しその旨大労会議に回答すると共に三染工業所に対し書面を以てその旨申入れたるが三染工業所に於ては之を拒否する旨回答し来りたるより被告人細谷治嘉、同山崎俊助、同榎下常雄等は直接三染工業所次長平山威に面会しデモ隊入所の許容方申入れたるも同人は三染工業所構内には賠償工場存在し且工場管理上他の労組デモ隊の入所は許容し得ざる旨主張し之が入所を拒否するの態度を堅持して讓らざりしを以て被告人三名は三染労組事務所に於て協議の上会社側が拒否するに拘らず飽く迄他労組のデモ隊を入所せしむるが為め他の労組に対し労働組合法第十条の団体交渉権を委任するの方法により他労組デモ隊を三染工業所構内に入所せしめむことを企て大労会議を通し傘下労組に対し会社側の態度並にデモ隊に対しては団体交渉権の委任を為すべき旨通知し且つ三染労組幹部が手分けしてデモ隊受入の為め待機し居るに対しても何等之が変更の必要をも指示することなくその儘の体勢に置かしめ因て何等正当なる団体交渉を為すが為めには非ずして唯三染労組を激励する為めの示威行進を為すのみの目的を以て

(イ)  同月二十三日午後零時三十分頃被告人中原守が引率し来たりたる東洋高圧労組デモ隊約千名位

(ロ)  同日午後二時頃被告人中村孝が引率し来りたる電産労組大牟田分会デモ隊約三十名位

(ハ)  同日午後二時三十分頃被告人田村順〓が引率し来りたる電化労組デモ隊約八十名位

(ニ)  同月二十三日午前十一時頃被告人松野照次が引率し来りたる電産労組港分会デモ隊約二十名位

をして会社側が極力その入所を拒否したるに拘らず大衆の力と三染労組側の内部よりの呼応により会社側の拒否を押切り三染工業所長大坪昌治の看守する同工業所構内に故なく侵入するに至らしめ以て之が犯行を幇助した

というのである。

凡そ幇助とは其の客観的要件より之を観れば正犯たる実行行為を可能又は容易ならしめる一切の援助行為を指称し其手段方法に制限なく器具を給与するが如き物質的支持たると実行方法の指示により正犯の犯意を強化せしめ又は助言奬励等に因る所謂精神的支持たるとを問わないし正犯たる実行行為の着手前たると後たるを問わないが正犯の実行終了前たることを必要とする。作為に因つて成立するのは勿論作為義務の存在する以上不作為に因つても成立する。主観的要件より之を観れば正犯を幇助するとの所謂従犯の故意(未必的でも足りること勿論である)と正犯の実行行為が法定事実に該当するものであることの認識を要するが正犯者との間に意思の連絡のあることを要しないし被幇助者の何人であるかを知る要はない。

以上の観点より右公訴事実を審究するに

(1)  右公訴事実中前記会社と三染労働組合との鬪争経過、大労会議の共同鬪争委員会が設置さるゝに至つた事情、昭和二十三年十月二十二日大労会議より三染労働組合に対する申入、之に対する右労働組合の戦術委員の受入決定並其回答、会社に対する申入、被告人三名の平山次長との面会、其席上に於ける同次長の回答、被告人等が旧労働組合法第十条の団体交渉委任の方法を採ることゝしたこと等が公訴事実の通りであることは右被告人等の当公廷に於ける各供述、朝岡惠武作成の口述書の記載、検事の同人に対する聽取書、当審証人の寺町嘉雄の供述等により明白であり前記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)記載の通り四回に亘りデモ隊が侵入したことは前段認定の通りである。

(2)  当審証人伊藤〓男、検事の同人及細谷治嘉に対する各聽取書中の記載及被告人等の当公廷に於ける各供述を綜合推考するときは被告人等が前記の如き委任の方法を採るに至つた真意は真実委任を為す意思ではなく大労会議傘下の労働組合は同会議の共同鬪争の方針に従つてデモ隊派遣の意向でありデモ隊の来ると予想される時刻は切迫し会社側の拒否の意向は飜意せしむるに由なき情勢となつた為被告人等は窮余浅慮にも右方法を採るに於ては或は会社側を飜意せしめて平和裡にデモ隊を受入れ得るやも知れず又然らざる場合に於てもデモ隊の行動に法律的根拠を与え之を適法化し得るものと思惟した結果右の挙に出たものであることを認むることが出来る。又一方前記朝岡惠武森芳男に対する各聽取書、当審の証人佐々木改革、〓園剛、福山二郞、松倉三郞の各証言及判示第二に掲記した各証拠によれば(イ)の被告人中原守は所属労働組合の鬪争委員会よりデモ隊長を命ぜられ出発直前工業所が入門拒否の意向であることを知つて出発したが前記委任の件は侵入後三染労働組合事務所前に於て初めて知り、(ロ)の被告人中村孝はデモ隊長と決定していた〓園剛より依賴されてデモ隊長となり、(ハ)の被告人田村順〓は所属組合長より指名されてデモ隊長となつたが両名共に判示正門前に於て初めて右工業所の意向を知り右委任の件は侵入後前記場所で初めて知り、(ニ)の被告人松野照次は所属組合の靑年行動隊員の協議により事実上の指揮者となり右委任の件を知つて出発したが右工業所の意向を前段判示の時以前より察知し且委任の件が前記の如き事情の下に決定さるゝに至つたことを推知し得たと断定するに足る資料がない。

以上を綜合するときは公訴事実に言うが如く被告等は団体交渉を委任するとの方法の指示により他労働組合のデモ隊を右構内に入所せしめんことを企図したもの即ち従犯の故意の下に労働法規を曲解して刑事上の責任なき旨指示して正犯たる実行を奬励し又は正犯の犯意を強化せしめる等の幇助手段を敢行したものであることを確認し難い。

(3)  司法警察官の細谷治嘉に対する聽取書中の記載、当公廷に於ける被告人三名の各供述によれば前記十月二十二日朝戦術委員会に於てデモ隊観迎の為執行委員を二分し一部を東門に一部を正門に配置する旨決定し約三十名の執行委員が夫々右各門に出向いたことを認むることが出來る判示第一の(5)記載の如く被告人山崎俊助がデモ隊を案内したこと以外に前記各執行委員が具体的に如何なる幇助行為に出たか又は翌二十三日にも二十二日同様の配置を実施したか否かを確認するに足る証拠はない。

各被告人の当公廷に於ける供述によれば被告人細谷治嘉は判示第一の(1)(2)の各侵入の際には組合事務所におり(3)(4)の各侵入の際には県会出席等の為他出して不在であり被告人山崎俊助は(1)(2)(4)の各侵入の際被告人榎下常雄は各判示侵入の際は右組合事務所内におこつたことが明白であり被告人等に於て判示各侵入の実行終了前に何等かの物質的又は精神的の幇助手段を敢行したことを認むることが出來ない。被告人細谷治嘉の当公廷に於ける供述によれば前記配置決定後会社のデモ隊入門拒否の意向明白となつたに拘らず各委員に其旨通知の手続を採らなかつたが事実上各委員も右会社の意向を承知していたことを窺知し得るから右手続を採らなかつた一事を以て不作為に因る幇助とは断定し得ないと解する。尚被告人細谷治嘉が前記(1)(2)のデモ隊員に組合事務所前に於て謝辞を述べたことは同被告人の自認するところであるが侵入行為終了後に係るものと解する。

以上を要するに被告人山崎俊助の(2)の幇助の点を除く公訴事実は犯罪の証明不十分として無罪の言渡を為すべきである。

仍て主文の通り判決する。

(裁判官 塚本富士男)

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